ランニングシューズのケア、ちゃんとできていますか?
「洗い方がよくわからないのでそのまま放置している」「乾燥機で乾かしてしまった」「練習後は脱いでそのまま玄関に置いている」——こういった習慣、実はシューズの寿命を大きく縮める原因になっています。
私は大手の靴屋で販売員として働いた経験があり、革靴からスニーカー、ランニングシューズまで幅広い靴の知識を持っています。靴屋で働いていると「買った靴がすぐダメになった」というお客様の声をよく聞きますが、そういう方の多くはケアをほとんどしていません。逆に、何十年も同じ靴を使い続けている方は例外なく、日常的なケアを習慣にしています。
そんな私が「これだけは絶対にやめてください」と声を大にして言いたいNG習慣が3つあります。この記事では、その3つのNG習慣とその理由、そして正しいケア方法をわかりやすく解説します。
ランニングシューズの3大NG習慣

| # | NG習慣 | 主なリスク |
|---|---|---|
| 1 | 濡れたまま放置する | 接着剤の加水分解・ソール剥がれ |
| 2 | 直射日光・ドライヤー・乾燥機で乾かす | EVAミッドソールの変形・劣化 |
| 3 | 練習後にそのまま放置する | 臭いの染みつき・雑菌繁殖 |
それぞれ、なぜNGなのかを詳しく解説します。
NG習慣① 濡れたまま放置する

なぜやりがちなのか
雨の日に走ることは珍しくありません。ストイックなランナーなら雪の日でも走ります。また、夏場は汗でシューズがびしょびしょになることもあります。帰宅後に疲れ切っていると、そのまま玄関に置きっぱなしにしてしまうことも多いでしょう。「なんとなく良くないな」とは思いつつ、ついやってしまう——これが濡れたまま放置です。
なぜダメなのか:加水分解のメカニズム
ランニングシューズのアッパー(上部の布部分)とソール(靴底)は、接着剤で貼り合わせられています。この接着剤が水分に非常に弱いという性質を持っています。
水分に触れることで接着剤が分解される現象を「加水分解」と言います。加水分解が進むと接着力が落ち、ソールがビロンと剥がれてしまいます。あの「ソール剥がれ」は、多くの場合この加水分解が原因です。
雨だけでなく汗で濡れた場合でも同じリスクがあります。夏場の練習後にシューズを濡れた状態で放置するのは、雨の日と同様に加水分解を促進させます。
驚きの事実:新品のまま保管してもNG
実は、シューズが直接濡れていなくても加水分解は起きます。空気中の湿気に触れるだけでも常に進行しているのです。「箱に入れて新品のまま2〜3年保管していたら、久しぶりに出してみたらソールがボロボロになっていた」という経験をした方もいるのではないでしょうか。それほど接着剤は水分に弱いのです。
正しい対処法:乾燥剤・新聞紙を活用する
濡れたシューズはできる限り早く乾燥させることが大切です。
- 靴用乾燥剤を中に入れる:シューズ内部の水分を吸収してくれます。繰り返し使えるタイプも多くコスパも良好です
- 新聞紙を丸めて詰める:くしゃくしゃに丸めてシューズの中に詰めるだけでOK。新聞紙でシューズ全体を包む方法も有効です
保管時も乾燥剤を入れておくことで、空気中の湿気による加水分解をある程度予防できます。一番大事なこと:濡れたまま放置しない。これに尽きます。
NG習慣② 直射日光・ドライヤー・乾燥機で乾かす

「早く乾かしたい」がシューズを壊す
NG習慣①で「濡れたまま放置はダメ」と解説しました。では「早く乾かさないといけない」と思って、ドライヤーをかけたり、乾燥機に入れたり、直射日光の下に置いたりしていませんか? 実はこれも大きなNG習慣です。
なぜダメなのか:EVA素材は熱に弱い
ランニングシューズのミッドソール(靴底の中間層)には、ほとんどの場合EVA(エチレン酢酸ビニル)という素材が使われています。EVAは空気を含ませることでクッション性や反発力を生み出す、ランニングシューズの性能を支える重要な部分です。
EVAは水には強いが熱には非常に弱いという性質があります。高温にさらされると変形・劣化しやすく、クッション性や反発力が失われてしまいます。EVAが変形・劣化し始める温度は60〜70℃程度ですが、以下を見ると「それくらいなら大丈夫」とは思えなくなります。
- 夏場のアスファルト表面温度:直射日光下で約60℃
- ドライヤーの熱風(吹き出し口付近):約70℃
- 夏場の車内温度(直射日光下):約50〜60℃以上
つまり「夏場に外で直射日光に当てながら乾かす」「ドライヤーで乾かす」「乾燥機に入れる」は、EVAが変形・劣化する温度に達している可能性が非常に高いのです。
見落としがちな「車内放置」
乾燥機やドライヤーは意識的に避けられても、見落としやすいのが夏場の車内へのシューズ放置です。レース会場に車で行き、走り終わったシューズを車内に置きっぱなしにする——これがEVAの劣化を招いていることがあります。夏場の車内は日常的に50〜60℃を超えることがあるため、車の中も「高温場所」として意識してください。
正しい乾かし方
- 日陰で風通しの良い場所に置く(陰干し):基本中の基本です
- 扇風機・サーキュレーターの風を当てる:熱を加えずに乾燥させるのに最適。雨天など外に出せないときはこれを活用しましょう
- 新聞紙・乾燥剤で内部の水分を吸収する:外側だけでなく内側の乾燥も重要です
キーワードは「熱を加えない」。ゆっくり自然に乾かすことがシューズを長持ちさせる鉄則です。
NG習慣③ 練習後にそのまま放置する

シューズは「フットウェア」=服の一部
1回着た服をそのまま洗わずに次の日も着て、また洗わずに置いて……そういうことはしないですよね。靴は英語で「フットウェア(footwear)」と呼ばれるように、服の一部です。1回走ったシューズの中には汗・皮脂・雑菌が存在しています。それを繰り返し放置していると、臭いが繊維に染みつき、洗っても取れなくなります。
新品のうちは多少の放置でも問題は小さいですが、「履いて放置」を繰り返すと臭いの成分が繊維の奥に蓄積されていきます。こうなってしまうと洗っても洗っても臭いが取れない状態になってしまいます。
正しいケア:練習後は消臭・除菌スプレーを習慣に
練習から帰ってきたら、シューズを脱いだ直後に消臭・除菌スプレーを2〜3秒シューッとかける。これだけです。
消臭・除菌スプレーはドラッグストアや100円ショップで購入できます。個人的なおすすめはドン・キホーテで販売されている消臭除菌スプレー(490ml・500円前後)。コスパが高く、ランニングシューズだけでなく革靴やスニーカーにも使えます。ブランドにこだわらず、「除菌」「消臭」の両方に対応しているものであれば何でもOKです。
スプレー後、ある程度時間が経ったら乾燥剤を入れて保管する——この流れを習慣にするだけでシューズの臭いは大きく変わります。私自身もこの方法を毎回実践しています。
面倒な人向けの代替手段
「毎回スプレーするのは面倒」という方には以下の代替手段もあります。
- 消臭・除菌ボール:シューズの中に入れておくだけで消臭・除菌効果があります
- 乾燥剤:消臭効果は限定的ですが、湿気を取ることで雑菌の繁殖を抑えられます
- 重曹:シューズの中に振りかけて一晩置くと天然の消臭効果があります
完璧にやろうとすると続かないので、できる範囲で習慣化することが大切です。
ランニングシューズの正しい洗い方

水洗いしていいの?
「洗うとシューズが傷む」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。
しかし、正しい方法で洗えばダメージは最小限に抑えられます。むしろ洗わないで放置する方が汚れや臭いが蓄積し、劣化が早まります。ただし以下のNG洗い方は避けてください。
- ❌ 洗濯機・コインランドリーの靴専用洗濯機を使う
- ❌ 漂白剤・強い溶剤を使う
- ❌ 長時間つけ置きする
- ❌ 熱湯を使う
用意するもの
- 柔らかいブラシ(使い古しの歯ブラシでもOK)
- 中性洗剤(食器用洗剤で代用可)
- ぬるま湯(40℃前後)
- タオル
洗い方の手順
① 靴紐とインソールを外す:別々に洗います。一緒に洗うと洗い残しや乾燥ムラの原因になります。
② 乾いた状態でブラッシング:濡らす前に、乾いたブラシで砂・ホコリ・泥を落とします。この工程を省くと洗剤の泡立ちが悪くなり、洗浄効率が落ちます。
③ ぬるま湯+中性洗剤で手洗い:ブラシに洗剤液を含ませてアッパー全体をやさしくこすります。力を入れすぎず素材を傷めないよう注意。ソール部分は少し強めにこすってもOKです。
④ しっかりすすぐ:洗剤が残ると素材の劣化につながります。ぬるま湯でしっかりすすぎます。
⑤ タオルで水分を拭き取り、陰干し:タオルで水分を吸い取り、風通しの良い日陰で自然乾燥させます。内部に新聞紙を詰めると乾きが早くなります。直射日光・ドライヤー・乾燥機はNG(NG習慣②参照)です。
洗う頻度は月1回程度を目安に。汚れや臭いが気になる場合はより頻繁に洗っても問題ありません。
日常ケアと季節別の注意点

| タイミング | やること |
|---|---|
| 練習後(毎回) | 消臭・除菌スプレーを2〜3秒かける |
| 保管時 | 乾燥剤または新聞紙をシューズの中に入れる |
| 月1回程度 | 中性洗剤+ぬるま湯で手洗い→陰干し |
| 常に意識 | 直射日光・高温・ドライヤー・乾燥機を避ける |
春・夏(汗・高温対策)
- 練習後は速やかに風通しの良い日陰に置く
- 夏場の車内放置は特に厳禁(車内温度60℃超えも)
- 汗が多い季節なので消臭・除菌スプレーの頻度を上げる
- インソールを外して乾かす習慣を徹底する
秋・冬(雨・雪・泥対策)
- 雨・雪の走行後はすぐに乾燥剤や新聞紙で水分を取る
- 泥がついたら乾いた後にブラッシング(濡れたままこすると繊維に泥が入り込む)
- 天気が悪い日は屋内で扇風機・サーキュレーターを活用
シューズの寿命とケアの関係

ランニングシューズの一般的な寿命は走行距離で500〜800km程度と言われています。
しかしケアの状態によって大きく変わります。高温環境への暴露や加水分解によって「あまり走っていないのにへたっている」という状況も起こります。
劣化したシューズを使い続けることはパフォーマンスの低下だけでなく、膝や足への余分な負担にもつながります。
以下のサインが出たら交換を検討しましょう。
- アウトソールが大きく削れている
- 以前より走ったときの衝撃が大きく感じる(クッション性の低下)
- シューズ全体がへたった・柔らかくなった感じがする
- アッパーとソールに剥がれが見られる
- 消臭ケアをしても臭いが取れなくなった
Q&A:よくある疑問
Q. 濡れたシューズをすぐに乾かしたい場合は?
扇風機・サーキュレーターで風を当てながら乾かすのが最適です。ドライヤーの「冷風」モードは使えますが温風は避けてください。中に新聞紙を詰めると乾きが早くなります。
Q. 洗濯機で洗うのは絶対ダメ?
おすすめできません。洗濯機の回転による衝撃・摩擦がアッパーを傷め、形崩れや接着剤の剥がれにつながります。手洗いが基本です。
Q. 高機能カーボンプレートシューズも同じケアでいい?
基本的には同じです。PEBA等のフォームは水には強いですが熱に弱いため、やさしく手洗い→日陰干しで問題ありません。
Q. 靴箱に収納してもいい?
完全に乾いた状態で、乾燥剤を入れれば問題ありません。湿ったまま靴箱に入れると加水分解が進みやすくなるので注意。
Q. インソールは毎回外した方がいい?
できれば外した方が良いです。通気性が上がり乾きが早くなります。臭いの原因となる雑菌の繁殖も抑えられます。
Q. シューズはローテーションした方がいい?
2〜3足でローテーションするのが理想です。毎日同じ靴を履くと乾燥が追いつかず雑菌が繁殖しやすくなります。ミッドソールの回復にも24〜48時間の休息が必要とされています。
まとめ:ちょっとの手間が大きな差を生む

改めて3つのNG習慣を振り返ります。
- ❌ NG①:濡れたまま放置→接着剤の加水分解、ソール剥がれの原因
- ❌ NG②:直射日光・ドライヤー・乾燥機で乾かす→EVAミッドソールの変形・劣化の原因
- ❌ NG③:練習後にそのまま放置→臭いの染みつき・雑菌繁殖の原因
「消臭スプレーをひと吹き」「乾燥剤を入れる」「日陰に置く」——どれも30秒かからない作業です。この「ちょっとの手間」を毎回続けることが、半年後・1年後のシューズの状態に大きな差を生みます。
私自身、今履いているミズノのウェーブエンペラージャパン4への思い入れが強く、大切なレースでもこのシューズで走るつもりで丁寧にケアしています。ランニングシューズは毎日一緒に練習する大切なパートナー。そのパートナーを長く、気持ちよく使い続けるために、今日から正しいケアを始めてみてください。



