1. 反発とは

ランニングシューズでいう「反発」とは、着地で変形したミッドソールが元の形へ戻る際、受け取った力学的エネルギーの一部を足へ返す働きです。

イメージしやすい例:

  • ボールを地面に落とす → ボールが一瞬つぶれる → 元の形に戻る力で跳ね返る
  • トランポリン → 飛び込むとネットがたわむ → 戻る力で人が上に跳ね上がる

ランニングシューズも原理は同じです。

着地によって変形したミッドソールは、接地中に元の形へ戻りながら、受け取ったエネルギーの一部をランナーへ返します。

ただし、そのエネルギーがすべて前方への推進に使われるわけではありません。

実際の走行効果は、地面反力の向き、足の動き、プレートやロッカー(船底のような)形状などによって変わります。

ランニングシューズの反発の原理

2. 反発が起こる3段階のメカニズム

① 着地:エネルギーを「溜める」

足が地面に着いた瞬間、体重+衝撃力でミッドソールのフォーム(発泡材)が圧縮されます。このときフォーム内部の無数の気泡(発泡構造)が押しつぶされ、力学的エネルギーが弾性エネルギーとして一時的に蓄えられます。

「溜める」の例

たとえば、スポンジを手のひらで押す場面をイメージすると分かりやすいです。

スポンジを押すと内部の小さな空間がつぶれ、全体が縮みます。しかし、手を離すと元の形に戻ろうとします。ランニングシューズのミッドソールでも似たことが起こります。

着地すると、体重や衝撃によって発泡フォームが圧縮され、フォームの構造が変形します。

この変形に使われたエネルギーの一部が弾性エネルギーとして一時的に蓄えられ、次にフォームが元へ戻るとき、そのエネルギーの一部が返されます。

① 着地:エネルギーを「溜める」

② 支持期:エネルギーを「保持」

足が地面についている間、ミッドソールへの荷重は増減し、それに応じてフォームの変形も変化します。

この過程で、与えられたエネルギーの一部は弾性エネルギーとして蓄えられますが、すべてを保持できるわけではありません。

素材内部の摩擦や分子鎖の動きによって、一部は熱などへ変わります。

「保持」の例

たとえば、ゴムボールを押しつぶした状態をイメージすると分かりやすいです。

押している間、ボールは変形したままですが、内部には元の形に戻ろうとする力が残っています。ミッドソールも同様に、足が地面についている間は圧縮された状態になり、蓄えたエネルギーを一時的に保持します。

ただし、その一部は素材内部の摩擦などによって熱として失われます。損失が少ない素材ほど、その後より多くのエネルギーを返すことができます。

② 支持期:エネルギーを「保持」

③ 蹴り出し:エネルギーを「返す」

足が地面から離れる瞬間、圧縮されたフォームが元の形に戻ろうとして膨らみます。この復元の勢いが地面を押す力となり、ニュートンの第三法則(作用・反作用)によって、その反作用が体を前方・上方へ押し出す力として使われます。

「返す」の例

たとえば、トランポリンを蹴る場面をイメージすると分かりやすいです。

踏み込んだときに沈み込んだ床は、足が離れる直前に元の形へ戻りながら足を押し返します。ミッドソールも同様に、着地で圧縮されたフォームが蹴り出し時に復元し、その過程で地面へ力を加えます。

すると地面からは反対向きの力(地面反力)が返ってきます。この力がランナーの身体を上方や前方へ加速させる働きの一部となります。

③ 蹴り出し:エネルギーを「返す」

反発が高いシューズとは何か

ランニングシューズでいう「反発が高い」とは、単純に「ミッドソールが柔らかく、大きく潰れる」という意味ではありません。

重要なのは「着地でシューズに与えたエネルギーのうち、どれだけ多くを蹴り出しまでに戻せるか」です。

つまり、反発が高いシューズとは「着地でシューズに与えたエネルギーの多くを蹴り出しまでに戻せるシューズ」ということです。

この性質を考えるときに重要なのが「エネルギーリターン(Energy Return)」です。

「エネルギーリターン(Energy Return)」とはミッドソールが変形するときに受け取ったエネルギーのうち、元の形に戻るときにどれだけ返せるか、のことです。(後の見出しで説明します!)

「よく潰れる」と「よく跳ね返る」は別物

たとえば、次の2つを想像してみてください。

  • A:低反発クッション
  • B:よく弾むゴムボール

低反発クッションを強く押すと、大きく沈み込みます。しかし手を離しても、ゆっくりと元の形に戻ります。

一方、ゴムボールは押すと変形しますが、手を離すと素早く元の形へ戻ろうとします。

「よく潰れる」と「よく跳ね返る」は別物

つまり、

  • 「どれだけ変形するか」
  • 「変形させるために使ったエネルギーをどれだけ返してくれるか」

この2つ別の性質なのです。

ランニングシューズでも同じです。ミッドソールが非常に柔らかく、着地時に大きく沈み込んだからといって、そのシューズが必ず高反発とは限りません。

実際、2026年の研究では、ミッドソールの「compliance(変形しやすさ)」と「resilience(復元時にエネルギーを返す性質)」を分けて検討しています。

この研究では、EVAフォーム同士で変形しやすさを変えてもランニングエコノミーへの差は小さかった一方、より高いresilienceを持つフォームではランニングエコノミーが約2%改善していました。

つまり、「柔らかさそのもの」よりも、「変形後にどれだけ効率よく戻るか」が重要である可能性が示されています。

参考:Impact of Running Shoe Midsole Properties on Energy Cost of Running: Insights Into Midsole Stiffness and Resilience Properties

エネルギーリターンとは

エネルギーリターンとは、加えたエネルギーに対して、どれだけエネルギーが戻ってくるかのことです。

例えばミッドソールを上から押し込むことを考えてみます。押すためにはエネルギーが必要です。

仮に100のエネルギーを使ってフォームを圧縮したとします。その後フォームが元に戻ったとき、100すべてが返ってくるわけではありません。たとえば、

  • 「100のエネルギーで押す → 反発で80が戻ってくる。残り20のエネルギーは熱などとして失われる」

のであれば、単純化するとエネルギーリターン率は約80%です。

つまり、「高反発ソール」とは、大まかに言えば変形させるために与えられたエネルギーを、損失を少なくして返せるソールと考えることができます。

エネルギーリターンとは

実際にはどうやって測るのか

研究などでは、ランニングシューズを機械で圧縮し、

  • 「押し込むときに必要だったエネルギー」
  • 「元に戻るときに返されたエネルギー」

を比較する方法があります。

有名なのが、Hoogkamerらが2017年に発表したマラソンレーシングシューズの研究です。この研究ではシューズに約2000N(Newton 2000N ≒ 約204kg重(kgf))の力を加え、約185ミリ秒というランニングに近い時間でミッドソールを圧縮しています。

参考:https://link.springer.com/article/10.1007/s40279-017-0811-2

すると、

  • 「押し込んだときの力と変形量」
  • 「戻るときの力と変形量」

上の2つでは差ができ、この差は主に熱などとして失われたものです。一方、戻るときの曲線に相当する部分が、シューズから返される弾性エネルギーです。

ここが「反発」を理解するうえで非常に重要です。

単に「何mm沈んだか」を見るだけでは、反発性能はわかりません。沈んだあと「どれくらいのエネルギーを残して戻ってきたのか」を見る必要があります。

なぜ押し込んだエネルギーが100%戻ってこないのか

ミッドソールはバネではありません。ミッドソールの素材は圧縮されると、その内部で

  • 高分子材料そのものの変形
  • 気泡構造の変形
  • 素材内部の摩擦
  • 分子鎖の動き

などが起こります。その過程でエネルギーの一部が熱へ変わります。したがって、

  • 着地時にミッドーソールを押すエネルギー
  • 一部を弾性エネルギーとして蓄える
  • 一部は熱などとして失う
  • 残ったエネルギーを復元時に返す(反発として返す)

ということになります。この「圧縮時に入力されたエネルギー」と「復元時に返されるエネルギー」の差は、ヒステリシス損失と呼ばれます。

低反発クッションとゴムボールで考えると分かりやすい

先ほどの「A:低反発クッション」「B:よく弾むゴムボール」でもう一度考えてみましょう。

低反発クッションにボールを落とすと、クッションは大きく沈みます。

しかし、あまりボールは跳ね返りません。

これは、クッションがボールから受け取ったエネルギーのかなりの部分を吸収し、熱などとして散逸させているためです。

反対に、よく弾むゴムボールを硬い床に落とすと、変形したあと素早く元の形に戻り、大きく跳ね返ります。

こちらは変形時に蓄えたエネルギーの比較的大きな割合を、再び運動エネルギーとして返しています。

ランニングシューズに置き換えると

  • 低反発クッションのように、たくさん沈むけれどエネルギーを多く吸収するソール
  • 変形したあと効率よくエネルギーを返すソール

は別物なのです。

反発を決める5つの要素

ランニングシューズの反発とは、着地によってミッドソールが変形し、元の形へ戻る際に、蓄えたエネルギーの一部をランナーへ返す働きのことです。

ただし、シューズは新しいエネルギーを生み出しているわけではありません。ランナーが着地時に加えたエネルギーの一部を一時的に蓄え、その一部を返しているにすぎません。

この反発を左右する主な要素は、次の5つです。

  • ①ミッドソール素材
  • ②フォームの気泡構造と密度
  • ③フォームの硬さと変形量
  • ④ミッドソールの厚さとフォーム量
  • ⑤フォームが元に戻る速さ

①ミッドソール素材

ランニングシューズの反発を大きく左右するのが、ミッドソールに使われているフォーム素材です。

ランナーが着地すると、ミッドソールは体重と地面反力を受けて圧縮されます。このとき、フォームには弾性エネルギーが一時的に蓄えられます。

その後、フォームが元の形へ戻ることで、蓄えたエネルギーの一部がランナーへ返されます。

しかし、入力されたエネルギーがすべて戻ってくるわけではありません。一部はフォーム内部の摩擦などによって熱として失われます。

ランニングシューズに使用される代表的な素材には、次のようなものがあります。

  • EVA(Ethylene Vinyl Acetate エチレン酢酸ビニル共重合体)
  • TPU(Thermoplastic Polyurethane 熱可塑性ポリウレタン)
  • PEBA(Polyether Block Amide ポリエーテルブロックアミド)
  • TPEE(Thermoplastic Polyester Elastomer 熱可塑性ポリエステルエラストマー)
  • 超臨界発泡フォーム

一般的に、PEBAやTPEEなどを使用した新世代のフォームは、軽量性や復元性に優れたものが多く、従来型のEVAより高いエネルギーリターンを示す場合があります。

ただし、素材名だけで反発の強さを判断することはできません。同じPEBA系やEVA系でも、配合、発泡方法、気泡構造などによって性質が異なるからです。

2024年の研究では、PEBA系フォームを使用したシューズが、従来型のEVAフォームを使用した条件よりランニングエコノミーを改善しました。ただし、これはフォームの反発だけを直接示すものではなく、実際の走行効果にはシューズ全体の設計も関係します。

参考:Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports

②フォームの気泡構造と密度

ミッドソールのフォームは、樹脂の内部に多数の気泡を作ることで軽量化されています。この気泡の大きさ、形、均一性、密度などが、フォームの変形と復元に影響します。

気泡が多い低密度のフォームには、少ない重量で厚いミッドソールを作りやすいという利点があります。一方、材料や気泡構造によっては、圧縮された後の復元が遅かったり、変形によるエネルギー損失が大きくなったりすることがあります。

反対に、高密度のフォームは形を保ちやすい傾向がありますが、硬くなりすぎると、ランナーが着地しても十分に圧縮されない可能性があります。

重要なのは、単純に密度が低いか高いかではありません。

  • 着地によって適度に圧縮される
  • 圧縮された後に素早く元へ戻る
  • 変形時に失われるエネルギーが少ない
  • 軽量性を維持できる

このような性質を両立した気泡構造が、ランニングシューズの反発に適しています。

そのため、「低密度フォーム=高反発」とは限りません。フォームの密度は、素材の種類や気泡構造と合わせて考える必要があります。

③フォームの硬さと変形量

ミッドソールの反発には、フォームがどれくらい変形するかも関係します。

柔らかいフォームは、着地時に大きく圧縮されやすいため、より多くのエネルギーを蓄えられる可能性があります。しかし、柔らかすぎるとフォームが潰れ切ってしまい、変形した状態から十分に戻れないことがあります。また、足が沈み込みすぎることで、戻ってきたエネルギーを感じにくくなる場合もあります。

一方、硬いフォームは変形量が小さくなります。素材自体の復元性が高くても、ランナーが十分に圧縮できなければ、実際に蓄えられるエネルギーは少なくなります。

したがって、反発に適した硬さは一律ではありません。

これらによって、フォームの変形量は変わります。

同じシューズでも、体重の重いランナーや速いペースで走るランナーはフォームを大きく圧縮しやすく、反発を強く感じる可能性があります。

反対に、体重が軽いランナーやゆっくり走るランナーには、同じフォームが硬く感じられることがあります。

大切なのは、単純な柔らかさではなく、「ランナーが適度に変形させられ、接地中に元へ戻る硬さ」になっていることです。

④ミッドソールの厚さとフォーム量

ミッドソールの厚さは、変形できる素材のフォームの量に関係します。

同じ素材と硬さであれば、フォームの量が多いほど、圧縮によってエネルギーを蓄えられる余地が大きくなります。また、十分な厚さがあれば、柔らかいフォームを使用しても、着地時に潰れ切る「底付き」が起こりにくくなります。

そのため、厚底ランニングシューズには、高反発で柔らかいフォームの性質を生かしやすいというメリットがあります。

ただし、厚さそのものがフォームのエネルギーリターン率を高めるわけではありません。

例えば同じフォームが、加えられたエネルギーの80%を返す場合、厚くしただけで90%を返せるようになるわけではありません。厚さによって変わるのは、変形できる量や、蓄えられるエネルギーの絶対量です。

また、厚くしすぎると重量が増えたり、フォームが横方向へ変形したりする可能性もあります。そのため、「厚いほど必ず反発が強い」とは言い切れません。

2025年の研究では、硬いフォームの厚さだけを増やしてもランニング時の代謝コストは改善せず、むしろ増加しました。

一方、同じ厚さでも、柔らかく復元性の高いフォームでは代謝コストが低下しました。厚さだけでなく、素材の復元性との組み合わせが重要だと分かります。

参考:Journal of Experimental Biology

⑤フォームが元に戻る速さ

ランニングシューズの反発では、エネルギーをどれだけ返すかだけでなく、いつ返すかも重要です。

ランニング中に足が地面へ接している時間は限られています。フォームがゆっくり元へ戻る場合、エネルギーリターン率が高くても、足が地面から離れるまでに復元が間に合わない可能性があります。

反対に、圧縮されたフォームが素早く元へ戻れば、接地している間にエネルギーが返されやすくなります。この復元の速さが、ランナーが感じる「弾む」「跳ね返りが速い」といった感覚にも関係します。

ただし、反発が返ってくる適切なタイミングは走行速度によって変わります。

速いペースでは接地時間が短くなるため、より素早く復元するフォームが合いやすいと考えられます。ゆっくりしたペースでは、同じフォームでも反発のタイミングが合わず、硬く感じたり、反発を十分に感じられなかったりすることがあります。

また、フォームの復元速度は気温によっても変化します。一般的に、フォームは低温環境では硬くなりやすく、高温環境では柔らかくなりやすいため、同じシューズでも季節によって反発感が変わる場合があります。

フォームが元に戻る速さ

反発はミッドソールの「変形と復元」で決まる

ランニングシューズの反発を決める中心的な要素は、ミッドソールの素材、気泡構造、硬さ、厚さ、復元速度です。

これらは、次の3点に集約できます。

  • 着地時にどれだけ適切に変形できるか
  • 変形によってどれだけエネルギーを蓄えられるか
  • 蓄えたエネルギーを接地中にどれだけ返せるか

一方、プレートやシャンク、縦方向の曲げ剛性、ロッカー形状は、主にシューズの曲がり方や足の動き、返されたエネルギーの利用方法に関係します。

反発そのものを生み出す中心的な要素とは分けて考える必要があります。

厚底シューズはなぜ反発を感じやすい?

「高反発ランニングシューズ」と聞くと、厚いミッドソールを備えた厚底シューズを思い浮かべる人が多いでしょう。

実際、現在の高反発シューズには、軽量で復元性の高いフォームを厚く配置したモデルが多くあります。

厚底シューズが反発を感じやすい主な理由は、高反発フォームを十分な量だけ使用し、大きく変形させても底付きしにくい構造を作れるからです。

厚さそのものが反発を生み出すからではありません。ただし、厚底であれば必ず高反発になるわけではありません。

フォーム量が増えるメリット

厚底シューズでは、足の下に配置できるフォームの量が増えます。

これにより、着地時にフォームが圧縮される範囲を確保しやすくなります。

ミッドソールフォームは、着地によって圧縮されると弾性エネルギーを一時的に蓄えます。その後、元の形へ戻る過程でエネルギーの一部をランナーへ返します。

薄いミッドソールでは、柔らかいフォームを強く圧縮すると、すぐに潰れ切ってしまうことがあります。これが「底付き」です。底付きが起こると、それ以上フォームが変形できなくなり、柔らかさや反発を十分に生かせません。

フォーム量が多い厚底シューズには、次のようなメリットがあります。

  • フォームが変形できる幅を確保しやすい
  • 強い荷重が加わっても底付きしにくい
  • 柔らかいフォームを使いやすい
  • より多くの弾性エネルギーを蓄えられる可能性がある
  • 長い距離でもクッション性を維持しやすい

ただし、ミッドソール全体が均等に圧縮されるわけではありません。実際にどの部分がどれだけ変形するかは、接地位置、体重、走行速度、フォームの硬さなどによって変わります。

そのため、フォーム量が2倍になれば、返ってくるエネルギーも単純に2倍になるという関係ではありません。

厚底だからこそプレートやロッカーが重要になる

ここで注意したいのは、プレートやロッカー(船底のような)形状は、ミッドソールフォームのエネルギーリターン率を直接高めるものではないという点です。

カーボンプレートが入ったからといって、フォーム素材自体がより多くのエネルギーを返せるようになるわけではありません。ロッカー形状も、フォームそのものの反発を生み出す構造ではありません。

それでも厚底シューズでプレートやロッカーが重要になるのは、厚く柔らかいフォームには、曲がりすぎたり、横方向へ変形したりしやすい性質があるからです。

プレートには、主に次のような役割があります。

  • 厚いミッドソールの形状を保つ
  • シューズが過度に曲がるのを抑える
  • 柔らかいフォームを構造的に支える
  • シューズ全体の曲げ方を調整する

ロッカー形状には、接地したシューズを前方へ転がし、足運びを滑らかにする役割があります。

厚底シューズは前足部も厚く、そのままでは足指の付け根で曲がりにくいため、ソールを反り上げることで前方へ移動しやすくしています。

つまり、フォームが「エネルギーを蓄えて返す部分」だとすれば、プレートやロッカーは「厚いフォームを安定して機能させ、足の動きを調整する構造」です。

これらは反発そのものと同じではありません。

フォームが「エネルギーを蓄えて返す部分」だとすれば、プレートやロッカーは「厚いフォームを安定して機能させ、足の動きを調整する構造」です

厚底なのに反発を感じにくいシューズもある

厚底シューズのすべてが高反発ではありません。厚底はフォーム量を増やせる構造ですが、そのフォームが高い復元性を持っているとは限らないからです。

例えば、安定性や耐久性を重視した厚底シューズでは、フォームを硬めに設計することがあります。着地時の変形が小さければ、蓄えられるエネルギーも少なくなり、反発を感じにくくなる可能性があります。

反対に非常に柔らかいフォームでも、復元が遅かったり、内部で失われるエネルギーが多かったりすると、「沈み込むけれど弾まない」という感触になります。

また、「クッション性」と「反発」は同じではありません。柔らかく衝撃を吸収するシューズでも、吸収したエネルギーの多くを失えば、高反発とはいえません。

厚底シューズを選ぶ際は、厚さだけで判断せず、ミッドソール素材、硬さ、復元の速さ、重量なども確認する必要があります。

「反発を感じる」とは何を感じている?

ランニングシューズのレビューでは、「反発が強い」「よく弾む」「前へ押し出される」といった表現がよく使われます。

しかし、ランナーが「反発」と表現している感覚は、必ずしもミッドソールの反発だけではありません。

実際には、次のような異なる感覚が「反発」という言葉にまとめられています。

ランナーの表現主に関係するもの反発そのものか
弾むフォームの復元、身体の上下動反発を含む
沈んで戻るフォームの圧縮と復元反発に最も近い
硬く弾く硬さ、変形量、復元速度反発感の一種
転がるロッカー形状、曲げ剛性基本的には別
前へ押されるロッカー、プレート、走り方推進に関する感覚

反発と推進を正しく区別するには、「シューズを履いたときに何を感じているのか」を、もう少し細かく分解する必要があります。

弾む

「弾む」は、高反発ランニングシューズを履いたときによく使われる表現です。着地後に身体が上へ持ち上げられるような感覚や、地面から足を跳ね返されるような感覚を指します。

この感覚には、ミッドソールフォームの圧縮と復元が関係しています。着地時にフォームが変形してエネルギーを蓄え、元の形へ戻ることで、その一部がランナーへ返されるためです。

ただし、「身体が上下に弾むこと」と「前へ効率よく進むこと」は同じではありません。

強い反発を感じても、返ってきたエネルギーが主に上方向の動きとして現れれば、必ずしも前方への推進につながるとは限りません。身体が必要以上に上下すれば、ランナー自身が「よく弾む」と感じても、速く走れるとは限らないのです。

また、ランニング中に弾性エネルギーを蓄えて返しているのはシューズだけではありません。足部のアーチやアキレス腱など、ランナー自身の身体も「ばね」のように働きます。そのため、「弾む」という感覚は、シューズの反発と身体の動きが組み合わさって生まれる感覚と考える必要があります。

沈んで戻る

「沈んで戻る」は、ミッドソールの物理的な反発を最も直接的に表した感覚です。

着地すると、体重と地面反力によってミッドソールが圧縮され、足がフォームの中へ沈み込みます。その後、圧縮されたフォームが元の形へ戻ることで、蓄えたエネルギーの一部がランナーへ返されます。

このとき重要なのは、次の3点です。

  • どれくらい沈み込むか
  • 蓄えたエネルギーをどれくらい返せるか
  • 足が地面から離れるまでに戻れるか

柔らかいフォームは大きく沈み込みやすいため、より多くのエネルギーを蓄えられる可能性があります。しかし、柔らかいだけで復元性が低ければ、「沈むけれど戻ってこない」という感覚になります。

反対に、復元性が高いフォームは、沈み込んだ後に素早く元へ戻ります。そのため、「グッと沈んでからポンと戻る」「一度ためてから跳ね返る」といった反発を感じやすくなります。

ただし、沈み込みの大きさとエネルギーリターン率は同じではありません。大きく変形するフォームでも、変形時のエネルギー損失が大きければ、高反発とはいえません。

高反発フォームに必要なのは、単なる柔らかさではなく、「適度に沈み、失うエネルギーが少なく、接地中に戻ること」です。

硬く弾く

反発の強いランニングシューズが、必ずしも柔らかいとは限りません。沈み込みが少なくても、「硬い板で素早く弾かれるような反発」を感じるシューズがあります。

この感覚は、柔らかいフォームが大きく圧縮されて戻る感覚とは異なります。

硬いミッドソールは、同じ力が加わっても変形量が小さくなります。そのため、エネルギーを大きくためて返すというよりも、足を着いた直後に力が返ってくるような、速く鋭い反応として感じられる場合があります。

特に薄底シューズや前足部の曲げ剛性(受ける力に対して変形しにくい性質)が高いシューズでは、次のような表現が使われます。

  • パンッと弾く
  • 接地反応が速い
  • 地面を蹴るとすぐに返ってくる
  • 沈み込まずに反応する

ただし、「硬く感じること」と「エネルギーリターンが高いこと」は同じではありません。

硬いフォームは反応が速く感じられる一方で、十分に変形しなければ、蓄えられるエネルギーは少なくなります。反対に、柔らかいフォームは反応が遅く感じられても、多くのエネルギーを蓄えて返している可能性があります。

つまり、「硬く弾く」という感覚は、エネルギーリターンの量だけでなく、フォームの硬さ、変形量、戻る速度、接地時間などから生まれる主観的な反発感です。

転がる

厚底ランニングシューズを履いた際に感じる「前へコロコロ転がる」という感覚も、反発として表現されることがあります。

しかし、この感覚はフォームの反発というより、主にロッカー形状によるものです。

ロッカー形状とは、ソールの前後、特に前足部を反り上げた設計です。接地後に身体が足の上を通過すると、湾曲したソールが地面の上を転がるように動きます。これによって、接地からつま先が離れるまでの動きが滑らかになります。

このとき、フォームが強く圧縮・復元していなくても、「勝手に足が前へ運ばれる」「シューズが転がっていく」という感覚が生まれることがあります。

したがって、

  • 上下に跳ね返される
  • 沈み込んだフォームが戻る
  • カーブしたソールの上を前へ転がる

これらは、それぞれ異なる現象です。

プレートはロッカー形状を保ち、厚いソールが途中で折れ曲がりすぎるのを抑える場合があります。しかし、ロッカーもプレートも、フォームのエネルギーリターン率を直接高めるものではありません。

「転がる感覚」は、反発ではなく、シューズの形状によって生じる前方への移行(推進)感と考えるほうが正確です。

前へ押される

「シューズに前へ押される」「勝手にスピードが出る」という感覚は、ランナーが反発を説明するときによく使う表現です。

しかし、これは反発そのものではなく、推進(前への感覚)に関する感覚です。

反発は、着地時にミッドソールが受け取ったエネルギーの一部を返す働きです。一方の推進は、ランナーが地面へ力を加え、その反作用で身体が前方へ進むことを指します。

ランニングシューズが新しい推進エネルギーを作り出し、ランナーを自動的に前へ押しているわけではありません。前へ進むためのエネルギーのもとは、あくまでランナー自身です。

つまり、「前へ押される感覚」は、反発だけで生まれているのではありません。フォーム、プレート、ロッカー形状、ランナーの走り方が組み合わさった結果として生まれる総合的な感覚です。

まとめて「反発がある」と表現している可能性

「このシューズは反発が強い」と話すとき、実際には複数の異なる感覚が含まれている可能性があります。

フォームが沈んで戻る感覚を指している人もいれば、硬いソールに素早く弾かれる感覚を指している人もいます。

また、ロッカーによって前へ転がる感覚や、シューズ全体によって前方移動が滑らかになる感覚を「反発」と呼ぶ人もいます。

しかし反発は、シューズが蓄えたエネルギーを足へ返す働きです。上下方向への作用が大きい傾向はありますが、反発と前方への推進力は同じではありません。

反発と推進を区別するとシューズを選びやすくなる

ランニングシューズを選ぶときは、単に「反発が強いシューズ」を探すのではなく、自分がどのような感覚を求めているのかを明確にすることが重要です。

  • 大きく沈んで戻る感覚が欲しい → 柔らかく、厚い高復元フォーム
  • 沈み込みが少ない鋭い反応が欲しい → 硬めで軽量なフォーム、薄底
  • 足を前へ運びやすくしたい → ロッカー形状やソール全体の曲げ剛性
  • 前へ押されるような走行感が欲しい → フォーム、プレート、ロッカーと走り方の相性
  • 地面の感触を残しながら反応を得たい → 高反発フォームを使用した薄底シューズ

反発とは、基本的にフォームが変形して戻る働きです。転がる感覚や前へ押される感覚は推進に近いので、区別して考える必要があります。

多くのランナーは、反発と推進、ロッカーによる転がり、硬さによる鋭い反応をまとめて「反発がある」と表現しています。

この違いを理解すれば、商品説明やレビューの「高反発」という言葉だけに左右されず、自分が求める走り方や感覚に合ったランニングシューズを選びやすくなります。

「推進力」とは? 反発と何が違う?

ここまでのようにランニングシューズについて「反発が強いから前に進む」「反発=推進力」と考えられることがありますが、物理学・バイオメカニクスの観点では、反発と推進は分けて考えた方が正確です。

整理すると、

  • 反発とは:シューズが変形時に受け取ったエネルギーを、復元時に返す作用
  • 推進とは:ランナーの身体を前へ加速させる作用

です。

反発とは:シューズが変形時に受け取ったエネルギーを、復元時に返す性質。
推進とは:ランナーの身体を前へ加速させる作用。

「反発」はエネルギーを返すこと

繰り返しになりますが、着地するとミッドソールのフォームが圧縮されます。このときシューズには弾性エネルギーが一時的に蓄えられます。

その後、フォームが元の形へ戻るとき、蓄えたエネルギーの一部が機械的エネルギーとして返されます。

これがシューズの「反発」を考える基本です。実際の研究でも、シューズを機械的に圧縮し、

「圧縮時に蓄えられたエネルギーのうち、復元時に何%戻ったか」

をエネルギーリターンとして測定されています。ただし、ここではまだ「どの方向にランナーが進むか」という話は含まれていません。

推進は「身体を前へ加速させること」

先ほどお伝えした通り、ランニングにおける推進は身体の重心を前方向へ加速させることです。

走っている人が地面に力を加えると、地面からは地面反力(GRF:Ground Reaction Force)が返ってきます。

この地面反力には、

  • 身体を支える上下方向の性質
  • 身体を減速・加速させる前後方向の性質

があります。

地面反力には、
身体を支える上下方向の性質
身体を減速・加速させる前後方向の性
があります。

接地前半では、前後方向の地面反力は一般に走行方向とは逆向きに作用するため、身体を減速させます。

そして接地後半になると力の向きが変わり、前方向へ力が生じます。これが推進力です。

したがって、バイオメカニクス的な意味での推進は、「接地中に地面から受ける力によって、身体の前方向への運動量を増加させること」と考えられています。

高反発ソールのエネルギーが全て推進に使われるわけではない

ここがランニングシューズを理解するときの重要なポイントです。

高エネルギーリターンのソールが80%、90%近いエネルギーを返したとしても、「そのエネルギーの80~90%がそのまま前方向の推進力になる」という意味ではありません。

ランニングでは、身体を前へ運ぶだけでなく、

  • 体重を支える(立脚期全体)
  • 身体が落下するのを受け止める(立脚期前半)
  • 再び身体を持ち上げる(立脚期後半)
  • 脚を前後へ動かす(主に遊脚期)

といった複雑な動作が同時に行われています。

実際、ランニングでは身体を支えることと前に進む動作が必要で、股関節、膝関節、足関節(足首)などが分担してその仕事を行います。

そのため、ミッドソールから返されたエネルギーも、人間の動作とシューズの動きの中で利用されます。

「ミッドソールが返したエネルギー = そのまま前向きの力」という単純な関係ではありません。

では、高反発ソールは何の役に立つのか

高反発ソールの(反発の)役割を一言でいうと、「高反発なソールの役割を一言でいうと、着地でミッドソールが受け取ったエネルギーのうち、熱などとして失われる割合を小さくし、接地中の復元によってより多くをランナーへ返すこと」です。

ランニングでは、着地するたびに身体やシューズが変形し、エネルギーの一部が失われます。その失われた分は、最終的に筋肉が動作をして補う必要があります。

そこで、高いエネルギーリターンを持つミッドソールが役立ちます。

たとえば、着地時にミッドソールへ100のエネルギーが入ったとします。

低反発なフォームでは、そのうち40が熱などとして失われ、60しか戻らないとします。一方、高反発なフォームなら20しか失われず、80を戻せるかもしれません。

この場合、高反発フォームは「新しいエネルギーを20生み出した」のではありません。

本来失われていたはずの20を、より多く残して返したということです。

この違いが重要です。

つまり、高反発ソールのメリットは「ランナーを勝手に前へ押してくれる」というより、「ランナー自身が生み出したエネルギーを、シューズ内で無駄にしにくくする」ことにあります。

そしてさらに高反発なソールを、シューズの曲がり方や足運びに影響するカーボンプレート、ロッカー形状などの推進(前への動きをサポートするもの)と組み合わせることでランニングエコノミーの改善につながります。

高反発ソールはプレート、ロッカー形状、軽量性などと適切に組み合わさることで、ランニングエコノミーが改善し、結果としてレースタイムの短縮に役立つ可能性があります。ただし、効果には個人差があります。

シャンク・プレートの役割

(本見出しで挙げる「プレート」とはカーボンではないプレートを指します。)

高反発ミッドソールは、着地時に圧縮されてエネルギーを蓄え、復元するときにその一部を返します。ただし、実際の着地ではミッドソールは単純に上下方向へ潰れるだけではありません。

人間の足は着地後に完全な剛体(変化しにくい個体)として動くわけではありません。踵から前足部にかけて、足部の回内・回外やアーチの変形などが起こります。

そのためシューズ側でも、

  • 上下方向への圧縮
  • 前足部の屈曲
  • 左右方向への変形
  • 踵部と前足部の相対的なねじれ

などが複合的に生じます。

たとえば、右足で着地したときに踵側がわずかに内側へ倒れながら、前足部側が別の方向へ動けば、シューズ全体には「雑巾を絞るような」ねじれ方向の変形が生じます。

シャンクは、この「ねじれすぎ」を抑える役割を持つ

特に昔ながらのランニングシューズや薄底シューズで使われるシャンクは、中足部を補強することで、踵と前足部がバラバラに動きすぎないようにする役割を担います。

たとえばシャンクがなく、ミッドソールが非常に柔らかい場合、

  • 着地
  • 踵が沈む
  • 中足部がねじれる
  • 前足部も独立して動く

という変形が大きくなりやすくなります。

そこに樹脂製などのシャンクを入れると、中足部が骨格のように補強されます。すると、


  • シャンク
  • 前足部

がある程度一体となって動きやすくなります。この意味では、シャンクは単純に「反発を強くする部品」というより、「ミッドソールの不要な変形やねじれを抑えて、シューズ全体の形を保つ部品」と考えた方が分かりやすいです。

なぜ「ねじれを抑える」とミッドソールにとって助けになるのか

高反発ソールは、押しつぶされることでエネルギーを蓄え、元に戻るときにその一部を返します。

しかし、着地したときにシューズ全体が必要以上に「ぐにゃっ」と曲がったり、「グニッ」とねじれたりすると、ミッドソールの変形が複雑になります。

すると、ランナーが加えたエネルギーが単純な上下方向の圧縮だけではなく、屈曲・せん断・ねじれなどにも使われます。

そうなると反発として返ってくるエネルギーリターンが小さくなってしまいます。

そこで、シャンクや(カーボンではない)プレートでシューズの構造を補強すると、こうした変形を制限し「シューズをどこで、どのように変形させるか」をコントロールしやすくなります。

ちなみにこれは、厚い高反発ソールを使うほど重要になります。厚いソールを作れば、大きく沈み込める一方で、横方向やねじれ方向にも不安定になりやすいからです。

シャンクはミッドソールの「潰れ方」を変える

厚くて柔らかい高反発ソールは、着地時に大きく押しつぶすことができるのがメリットです。ただし、柔らかい素材ほど、荷重が加わった場所だけが局所的に沈み込みやすくなります。

たとえば、柔らかいスポンジを指1本で押すと、指の真下だけが大きく凹みます。

一方、そのスポンジの上に薄い板を置いてから押すとどうでしょうか。

指の力が板を介して周囲にも伝わるため、一点だけが深く沈むのではなく、より広い範囲のスポンジが変形します。

ランニングシューズにおけるプレートも、イメージとしてはこれに近い働きをします。

足から加わる重さをシャンクが受け、その力をシャンク周辺のミッドソールへ伝えることで、局所的な変形だけではなく、より広い範囲のソールを使って荷重を受けやすくなります。

近年のレビューでも、カーボンプレートの形状や剛性によって前足部の荷重分布や足底圧が変化することが報告されており、プレートが単なる「硬い板」ではなく、シューズ内で力がどのように伝わるかを変える構造物であることが示されています。

参考:https://link.springer.com/article/10.1186/s13102-026-01721-w

 

重さが一部分だけに集中するよりも、シャンクによって荷重の伝わり方が変われば、ミッドソールのより広い領域が変形に関与する可能性があります。

イメージとしては一部分だけを強く潰して戻すのではなく、より広い範囲のフォームを使って荷重を受け、シューズ全体として復元するという方向です。

ただし注意点があります。

「広い範囲を潰せる=エネルギーリターン率が高くなる」とまでは言えません。

フォームそのもののエネルギーリターン率は、PEBAやEVAなどの素材特性、発泡構造、温度、変形速度などによって決まります。

プレートが主に変えるのは「フォームが何%のエネルギーを返せるか」ではなく「そのミッドソールを、シューズのどこで、どのように変形させるか」です。

シューズはどうやって反発を「前への動き」に生かすのか

まず重要なのは、高反発フォームがエネルギーを返したからといって、そのエネルギーが自動的に前方向へ使われるわけではない、という点です。

ミッドソールの役割は、着地時に圧縮されてエネルギーを蓄え、その一部を復元時に返すことです。

しかし、ランナーが実際に前へ進むためには、

が重要になります。そこで関係してくるのが、

  • ソール形状
  • ロッカー構造
  • ミッドソールの硬さ・柔らかさ
  • 縦方向の曲げ剛性
  • カーボンプレート or 樹脂プレート or シャンク

といったシューズ全体の設計です。

そもそも「前へ進む」とは何が起こっているのか

ランニング中、足が地面に接地すると地面からは反対方向の力、つまり地面反力が身体へ返ってきます。

そしてこの地面反力には上下方向と前後方向の成分があります。

接地前半では、前後方向の地面反力は主にランナーを減速させる方向に働きます。一方、接地後半では向きが変わり、身体を前へ加速させる方向に働きます。

接地前半では、前後方向の地面反力は主にランナーを減速させる方向に働きます。

一方、接地後半では向きが変わり、身体を前へ加速させる方向に働きます。

推進とは、地面から受ける前向きの力によって、身体の前方への運動量を増やすことです。一般的には、接地後半で推進力が働きます。

ここにシューズの形状や剛性などが関係します。

形状やプレートなど、推進に関わる以下の①~⑤を順に説明します。

  • ① ロッカー形状は「前へ転がる動き」を作る
  • ② プレートは「曲がる場所」を制御する
  • ③ 湾曲したプレートは「てこ」に近い働きをする可能性がある
  • ④ ミッドソールの硬さは「エネルギーを返すタイミング」に関係する
  • ⑤ プレートとロッカーが「時間」と「方向」を整える

反発を前への力に変える重要な5つの要素

ランニングシューズは、反発が強ければそれだけで速く走れるわけではありません。

ミッドソールが返したエネルギーを、実際に身体を前へ進める力につなげるには、地面反力の向きや接地位置、シューズの剛性、フォームの変形、身体の動きなど複数の要素が関係します。

ここでは、反発を効率よく推進力へ変えるために重要な5つのポイントを整理して解説します。

① ロッカー形状は「前へ転がる動き」を作る

ランニングシューズのロッカー構造(船底のような構造)

わかりやすいのがロッカー構造(船底のような構造)です。

ロッカーとは、ソールの前後を鮒底のように曲げた形状です。ちなみに前足部が上向きに反った形状を「toe spring」と呼びます。

接地後半になると、ランナーの身体は足の上を通過し、踵が浮いてつま先方向へ重心が移動していきます。

平らで非常に柔らかいシューズなら、このとき前足部を大きく曲げながら蹴り出す必要があります。

一方、ロッカー形状では、

  • 身体が前方へ移動
  • ソールの曲がった形に添ってシューズが転がる
  • つま先方向へ転がる

という動きが起こりやすくなります。

つまり、ミッドソールから返されたエネルギーを「真上に跳ね返す」だけではなく、シューズ全体の転がる運動と組み合わせて、接地後半の推進(前方移動)につなげやすくするわけです。

② プレートで「曲がる場所」を制御

次に重要なのがプレート(シャンクを含む)です。

カーボンプレートや樹脂プレートを入れると、シューズの縦方向の曲げ剛性が高くなります。

つまり「どこでも自由にグニャッと曲がるシューズ」から、「決められた場所を中心に曲がるシューズ」へ変わります。

プレートがない柔らかいシューズでは、蹴り出し時につま先付近が大きく曲がります。このときMTP関節、つまり足指の付け根でもエネルギーが吸収されます。

MTP関節

一方、シューズの縦方向の曲げ剛性を高めると、MTP関節の背屈(足の指が足の甲側(上方向)へ反る動き)が減り、地面反力の作用位置も前方へ移動することが報告されています。

つまりプレートは反発エネルギーを直接前方向へ打ち出すというより、足とシューズがどこを支点に、どのように転がるかを変えます。

その結果、蹴り出し時に足指の付け根が曲がりすぎるのを抑え※、より身体が前へ進みやすくなります。(ただし、必ず推進力が増えるという意味ではありません。シューズが硬すぎたり、プレート形状が走り方に合わなかったりすると、足首など別の部位への負担が増える可能性もあります。)

蹴り出し時に足指の付け根が曲がりすぎるのを抑え※、より身体が前へ進みやすくなります。

※足指の付け根が曲がりすぎると、地面を押す力の一部がMTP関節を曲げるために使われます。その結果、MTP関節で受け止めるエネルギーが増え、足部を硬い「てこ」として使いにくくなる場合があります。プレートはこの曲がりすぎを抑え、足から加えた力をつま先側まで伝えやすくします。

③ 曲がったプレートは「てこ」に近い働きをする可能性がある

現代の厚底カーボンシューズでは、プレートが平らではなく初めから曲がっていることが多いです。

この形状には意味があります。曲がっている硬いプレートが、柔らかい高反発フォームの中に入ることで、

  • 前足部が地面を押す
  • プレートが曲がった形状を保ちながら地面の上を前方へ転がる
  • 地面反力の作用位置やレバーアームが変わる
  • 足関節(足首)・MTP関節で必要な力の加え方・量が変わる

という仕組みが考えられています。

近年の研究では、上記のようなメカニズムにより足部と下腿(ふくらはぎとすねで、膝関節から足関節(足首)の間のこと)の角速度(どれだけの角度だけ回転したかを表す速さ)が変化し、足関節のエネルギー消費が減少したことも報告されています。

参考:Curved carbon plates inside running shoes modified foot and shank angular velocity improving mechanical efficiency at the ankle joint – PubMed

ただし、曲がったプレートが完全にてことして前へ押し出すというメカニズムは、まだ完全には確立されていません。

実際、Vaporflyのカーボンプレートに切れ目を入れて縦方向の剛性を低下させた研究では、ランニングエコノミーに有意な悪化は起こりませんでした。

プレート単独ではなく、フォーム、形状、プレートの相互作用が重要だと結論づけています。

④ ミッドソールの硬さは「エネルギーを返すタイミング」に関係する

フォームの硬さも重要です。

極端に柔らかければ、着地時に大きく沈みます。しかし、大きく沈みすぎると、

  • 圧縮する時間
  • 底に達する時間
  • 復元する時間

も変わります。反対に、硬すぎれば十分に変形せず、蓄えられる弾性エネルギーが少なくなる可能性があります。

したがって、

「柔らかさ+復元性+厚み+走行速度」の組み合わせによって、いつエネルギーが戻るかが変化します。

ここが非常に重要です。

たとえば、接地してすぐ大きな反発が戻ってきても、それが身体を前へ押したいタイミングと一致しなければ、必ずしも効率的ではありません。

接地後半、身体が足の前方へ移動し、推進局面へ入るタイミングで適切に復元することの方が重要です。

つまり高反発シューズでは「どれだけ返すか」だけでなく、「いつ返すか」も性能の一部になります。

⑤ プレートとロッカーが「時間」と「方向」を整える

ここまでを組み合わせると、かなり分かりやすくなります。

  • ミッドソール:エネルギーを蓄えて返す
  • ロッカー構造:シューズが前へ回転しやすい形を作る
  • プレート:曲がる場所・曲がり方を制御する
  • 剛性:接地中の足・シューズの変形速度を変える

という役割があります。したがって、

  • 高反発ソールはエネルギーを返す
  • ロッカー+プレートはそのエネルギーが返るときの足・シューズの姿勢や回転運動を整える

という関係になります。

これが「反発を前への動きに生かす」という意味に最も近いです。

ちなみにシャンクの場合は少し役割が違う

シャンクも基本的にはシューズの剛性を高める部品ですが、フルレングスのカーボンプレートとは少し役割が異なります。

「シャンク・プレートの役割」の見出しの個所でも書いた通り、シャンクは一般的に中足部周辺に配置され、

  • 中足部の過度な屈曲を抑える
  • ねじれを抑える
  • 後足部と前足部を構造的につなぐ
  • シューズの形状を安定させる

といった役割を持ちます。

したがって薄底シューズの場合は、高反発ソール+樹脂シャンクという組み合わせによって、「柔らかいフォームだけでは失われてしまうシューズの骨格を作る」という意味合いが強くなります。

カーボンプレートほどロッカー運動や大きなレバー効果を狙った構造ではなくても、足から加えた力によってソールが必要以上に折れたり、ねじれたりしないようにすることで、フォームをより安定した状態で変形・復元させる助けになります。

ただし、シャンクについてはカーボンプレートほどランニングエコノミーや推進力に関する研究は多くありません。

そのため、「シャンクが推進力を高める」と考えるよりソールの構造的な剛性や安定性を高め、力の伝わり方を整えると表現する方が良いです。

ここまでのまとめ:高反発=前への推進ではない

ここまでを見ると、高反発ソールだけでは前への推進を生まない理由がわかります。

何度も繰り返しますが、高反発なトランポリンは、多くのエネルギーを返します。しかし、そのエネルギーの多くは上方向です。

ランニングシューズでは「フォームがどれだけエネルギーを返す(反発する)か」だけでなく、その瞬間に、

  • 足がどの角度にあるか
  • 地面反力がどこを通っているか
  • シューズがどこを支点に転がっているか
  • どの関節が動いているか

が重要です。

そのため現在の厚底カーボンシューズの研究では、「エネルギーリターン単独」「縦方向の曲げ剛性単独」では、ランニングエコノミー改善を十分説明できないことが示されています。

2025年の48研究・878人をまとめたメタ解析では、AFTシューズ全体では酸素消費量が有意に減少しましたが、ミッドソールのエネルギーリターン単独、縦方向の曲げ剛性単独では有意な効果が確認されませんでした。

参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40550392/

また2026年のレビューでも、厚底カーボンシューズの効果はミッドソール、プレートの形状、ロッカー構造、スタックハイト(ソールの厚さ)、剛性などの相互作用による複数要素が一体となったシステムとして捉えるべきと考えられています。

参考:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13285428/

同じシューズでも反発の感じ方が違う理由

同じランニングシューズを履いても、「よく弾む」と感じる人もいれば、「硬くて反発を感じない」と評価する人もいます。これは単なる好みの違いではありません。

ランニングシューズのフォームが持つ機械的なエネルギーリターンは、素材固有の特性として測定できます。しかし、実際のランニングでは、ランナーがどれくらいの力を、どの場所へ、どのくらいの時間加えるかによって、ミッドソールの変形量と復元のタイミングが変わります。

つまり、次の2つは分けて考える必要があります。

  • シューズが物理的に持つ反発性能
  • ランナーが走行中に感じる反発

反発の感じ方には、体重、ランニング速度、接地時間、ピッチ、ストライド、接地位置、足関節の使い方、ランニングフォームなどが関係します。

体重

ランナーの体重が違えば、着地時にミッドソールへ加わる力も変わります。そのため、同じ硬さのフォームでも変形量が異なります。

比較的体重が重いランナーは、フォームを大きく圧縮しやすくなります。適度に変形すれば、フォームに蓄えられるエネルギーも増えるため、強い反発を感じる可能性があります。

一方、同じフォームを体重の軽いランナーが履いた場合、十分に圧縮できないこともあります。

ただし、「体重が重いほど反発が強くなる」と単純にはいえません。

柔らかいフォームに大きな力が加わりすぎると、フォームが潰れ切る「底付き」が起こったり、横方向への変形が大きくなったりする可能性があるためです。

重要なのは、フォームの硬さとランナーの体重が合っていることです。

体重に対して硬すぎれば変形させられず、柔らかすぎれば沈み込みすぎます。その中間に、そのランナーが反発を利用しやすい変形量があります。

ランニング速度

同じランナーが同じシューズを履いても、走る速度によって反発の感じ方は変わります。

一般的にランニング速度が上がると、着地時に短い時間で大きな力が加わるようになります。その結果、フォームの圧縮量や変形速度が変わり、ゆっくり走ったときよりも反発を強く感じることがあります。

特に、硬めの高反発フォームや曲げ剛性の高いシューズでは、遅いペースでは次のように感じる場合があります。

ペースを上げるとフォームへ加わる力が増え、接地から離地までの動きも変わります。その結果、「急に弾み始めた」「スピードを出したほうが気持ちよい」と感じることがあります。

ただし、高反発シューズのすべてが高速走行専用というわけではありません。柔らかく変形しやすいフォームであれば、遅いペースでも反発を感じられる可能性があります。

2025年のシステマティックレビューとメタ解析では、厚底、高反発フォーム、プレートなどを組み合わせたAFTの効果は、ランナーの走行速度とトレーニングレベルによって変化することが示されました。ただし、ここで評価されているのは主に酸素消費量や関節の仕事であり、主観的な反発感を直接測定したものではありません。

参考:Journal of Sport and Health Science

接地時間

接地時間とは、足が地面に着いてから離れるまでの時間です。ミッドソールは、この限られた時間の中で圧縮され、元の形へ戻る必要があります。

フォームの復元が接地中に起これば、ランナーは戻ってくる力を反発として感じやすくなります。しかし、フォームがゆっくり戻る場合、足が地面から離れるタイミングと合わず、「沈み込むけれど反発が弱い」と感じる可能性があります。

反対に接地時間が短いランナーには、変形後に素早く戻るフォームが合いやすいと考えられます。うまくタイミングが合えば、「足を着いた瞬間に返ってくる」「接地が軽い」という感覚が生まれます。

ただし、接地時間が短ければ必ず強い反発を得られるわけではありません。接地時間が短すぎてフォームを十分に圧縮できなければ、蓄えられるエネルギーも小さくなる可能性があります。

重要なのは接地時間の長さそのものではなく、次のタイミングが合っていることです。

反発の感じ方は、フォームの復元速度とランナーの接地時間の組み合わせによって変わります。

ピッチ

ピッチとは、1分間の歩数です。ピッチが高いランナーは、一般的に一歩ずつの動作が速くなり、接地時間も短くなる傾向があります。

高ピッチのランナーでは、フォームが圧縮されてから戻るまでの時間も短くなります。そのため、大きく沈み込んでゆっくり戻るフォームよりも、変形量が比較的小さく、素早く戻るフォームを好む場合があります。

一方、ピッチが低めのランナーは、一歩ごとの接地時間が比較的長くなる場合があります。着地時にフォームを大きく圧縮しやすく、「沈んでから戻る」タイプの反発を感じやすい可能性があります。

ただし、ピッチだけからシューズとの相性を判断することはできません。ピッチは走行速度やストライド、身長、接地位置などと関係しているためです。

「高ピッチなら硬いシューズ」「低ピッチなら柔らかいシューズ」と固定的に考えるのではなく、自分の普段のペースで、フォームの戻るタイミングが足運びに合うかを確認することが大切です。

ストライド

ストライドは、一歩で進む距離です。同じ速度で走る場合、ストライドとピッチは互いに関係します。一般的には、ストライドが長くなれば必要なピッチは下がり、ピッチが上がれば一歩のストライドは短くなります。

大きなストライドで走るランナーは、一歩ごとにシューズへ加える力や接地の仕方が変化します。フォームを大きく圧縮できれば、沈み込みと復元を強く感じる可能性があります。

また、厚底シューズの中には、フォームの復元やロッカー形状によって、自然に一歩が伸びるように感じられるものがあります。しかし、ここで感じているのはフォームの反発だけとは限りません。ロッカーによる前方への転がりや、接地位置の変化が含まれている可能性があります。

反対に、普段からコンパクトなストライドで走るランナーでは、厚いフォームを大きく変形させるよりも、軽量で復元の速いシューズのほうが反発を感じやすいことがあります。

ストライドが長いほど反発を利用できる、あるいは短いほど利用できないという単純な関係ではありません。シューズを履いたときに、普段のストライドを無理に変えなくても自然に走れるかが重要です。

接地位置

足のどの部分から着地するかによって、荷重されるミッドソールの位置が変わります。

ランニングの接地位置は、大きく次の3つに分けられます。

  • かかと付近から接地するリアフット着地
  • 足裏全体に近い位置で接地するミッドフット着地
  • 前足部付近から接地するフォアフット着地

ミッドソールの素材や厚さが足裏全体で同じとは限りません。前足部とかかとで異なるフォームを使用したり、高反発フォームを特定の場所へ重点的に配置したりするシューズもあります。

例えば、前足部に高反発フォームを多く配置したシューズでは、その部分へしっかり荷重できるランナーのほうが反発を感じやすい可能性があります。反対に、かかと側へ強く荷重するランナーでは、前足部のフォームが大きく変形するまでに時間がかかり、期待した反発を得にくい場合があります。

ただし、かかと接地だから厚底シューズの反発を利用できないわけではありません。かかとから接地しても、その後に荷重が前足部へ移動すれば、前足部のフォームやロッカーは機能します。

重要なのは着地時の最初の接地点だけでなく、接地中に足圧がどのように移動するかです。

足関節の使い方

ランニング中、足関節は着地の衝撃を受け止め、身体を支え、地面を押す役割を担っています。この足関節の動かし方も、ランニングシューズの反発の感じ方に影響します。

着地時に足関節や足部を適度に硬く保てると、フォームから戻ってきた力を受け止めやすくなります。一方、足関節が大きく崩れたり、足部が横方向へ傾いたりすると、シューズが復元しても、その動きを安定して受け取れない場合があります。

また、足関節を積極的に底屈させて地面を押すランナーと、股関節や膝を中心に走るランナーでは、同じシューズを履いても負荷が集中する場所が変わります。

プレートやロッカーを備えたシューズは、足関節や足指の付け根にあるMTP関節の動き方を変えることがあります。そのため、「フォームが強く反発している」というより、足関節で必要な仕事が変化した結果として、脚が軽い、前へ進みやすいと感じている可能性もあります。

ここでも、物理的な反発と推進の感覚を区別する必要があります。

ランニングフォーム

ランニングフォームは、ここまで紹介したピッチ、ストライド、接地位置、接地時間、足関節の使い方などを含む総合的な要素です。

同じシューズでも、フォームによって次の点が変化します。

  • ミッドソールへ加わる力
  • 力を加える方向
  • フォームが圧縮される位置
  • 圧縮されている時間
  • 身体の重心が足の上を通過する動き
  • フォームの復元と離地のタイミング

例えば、身体より大幅に前方へ足を着くオーバーストライドでは、ブレーキ方向の力が大きくなることがあります。この場合、シューズからエネルギーが返ってきても、前方への移動が滑らかになるとは限りません。

一方、重心に近い位置へ接地し、フォームの復元と足が地面から離れるタイミングが合えば、同じシューズでも「弾みを走りに生かしやすい」と感じる可能性があります。

ただし、特定のフォームだけが高反発シューズに適しているわけではありません。シューズによってフォームの厚さ、硬さ、プレートの形状、ロッカーの位置が異なるため、相性のよい走り方も変わります。

シューズに合わせて無理にフォームを変更するより、普段の走り方でも自然に荷重でき、違和感なく足を運べるモデルを選ぶことが重要です。

厚底カーボンの効果も走行速度やトレーニングレベルによって変わる

2025年のシステマティックレビューとメタ解析では、48研究、合計878人分のデータが検討されました。その結果、厚底カーボンは全体として酸素消費量を減らす傾向を示しましたが、その効果はランナーのトレーニングレベルと走行速度によって変化していました。

また、ミッドソールのエネルギーリターンや縦方向の曲げ剛性は、それぞれ単独では酸素消費量などに明確な効果を示しませんでした。厚底カーボンの効果は、フォーム、プレート、形状、ランナーの特性などが組み合わさって生じると考えられます。

参考:Journal of Sport and Health Science

ただし、「ランニングエコノミーが改善すること」と「強い反発を感じること」は同じではありません。反発を強く感じなくても走行効率が改善する場合があり、強く弾むと感じても酸素消費量が減るとは限りません。

「このシューズは反発10点」という絶対評価には限界がある

ランニングシューズのレビューで使われる「反発10点」「反発性が非常に高い」といった評価は、シューズ選びの参考にはなります。しかし、それはすべてのランナーに当てはまる絶対的な評価ではありません。

例えば、体重が軽く、ゆっくりしたペースで走るランナーには硬く感じるシューズでも、体重が重く、速いペースで走るランナーには適度に沈んで強く戻るシューズになる可能性があります。

したがって、ランニングシューズの反発を評価するときは、「反発が強いか」だけでなく、次の条件まで確認する必要があります。

  • 誰が評価したのか
  • 評価者の体重はどれくらいか
  • どのくらいのペースで走ったのか
  • どの部分で接地しているのか
  • 沈んで戻る反発なのか、硬く弾く反応なのか
  • 転がる感覚を反発と表現していないか

最終的に重要なのは、他人が付けた反発点ではなく、自分の普段のペースとランニングフォームで適切に変形し、違和感のないタイミングで戻ってくるかどうかです。

「高反発ランニングシューズ」という商品説明やレビューだけで判断せず、可能であれば実際に履き、自分が走る速度に近い条件で確かめることが、相性のよいシューズを選ぶ最も確実な方法です。

高反発ランニングシューズのメリット

高反発ランニングシューズの大きな特徴は、着地時にミッドソールが蓄えたエネルギーのうち、失われる割合を小さくできる可能性があることです。

ただし、高反発フォームを採用すれば、必ず速く、楽に走れるわけではありません。実際の走行効果は、フォームの厚さや硬さ、シューズ重量、プレート、ロッカー形状、ランナーの走り方などによって変わります。

また、高反発フォーム、厚底、プレートなどを組み合わせたシューズは、研究ではAFT(Advanced Footwear Technology)と呼ばれます。AFTの研究結果は「高反発フォーム単体の効果」ではなく、シューズ全体の効果である点に注意が必要です。

エネルギーロスを小さくできる可能性

ランナーが着地すると、ミッドソールフォームは圧縮され、弾性エネルギーを一時的に蓄えます。その後、フォームが元の形へ戻ることで、蓄えたエネルギーの一部がランナーへ返されます。

しかし、入力されたエネルギーがすべて戻ってくるわけではありません。一部はフォーム内部の摩擦などによって熱として失われます。

変形時に蓄えたエネルギーのうち、どれだけ戻せるかを示す割合が「エネルギーリターン」です。復元性の高いフォームほど、一般的にはエネルギーとして失われる割合が小さくなります。

高反発フォームには、主に次のような特徴があります。

  • 着地時に適度に圧縮される
  • 変形時のエネルギー損失が少ない
  • 圧縮後に元の形へ戻りやすい
  • 接地中に素早く復元する
  • 厚く配置しても重量を抑えやすい

ただし、シューズのエネルギーリターンが高いからといって、そのエネルギーがすべて前方への推進に利用されるわけではありません。上下方向へ返る場合もあれば、足が地面から離れた後にフォームが戻り、走行に十分利用されない場合もあります。

したがって、高反発シューズのメリットは「新しいエネルギーを生み出すこと」ではなく、ランナーから受け取ったエネルギーを、より少ない損失で返せる可能性があることです。

ランニングエコノミー改善

高反発ランニングシューズの代表的なメリットが、ランニングエコノミーを改善できる可能性です。

ランニングエコノミーとは、一定の速度で走るために必要な酸素量やエネルギー量を表します。同じペースで走ったとき、必要なエネルギーが少ないほど「ランニングエコノミーがよい」と評価されます。

軽量で柔らかく、復元性の高いフォームは、シューズ側で衝撃を受け止めながら、蓄えたエネルギーの一部を返します。さらに、プレートやロッカー形状が組み合わさることで、足関節や足指の付け根の動き方が変わり、一定のペースを維持するために必要な身体側の仕事を減らせる可能性があります。

初期の厚底レーシングシューズを調べた研究では、軽量で復元性の高いフォームとカーボンプレートを組み合わせたシューズにより、従来型のレーシングシューズと比べてエネルギー消費が平均約4%減少しました。

参考:Sports Medicine

また、2025年のシステマティックレビューとメタ解析でも、AFTは全体として走行中の酸素消費量を減らすことが示されました。ただし、フォームのエネルギーリターンやシューズの曲げ剛性を単独で検討した場合には、明確な効果が確認されませんでした。

参考:Journal of Sport and Health Science

つまり、ランニングエコノミーの改善は、高反発フォームだけで生まれるとは限りません。

「高反発フォーム+軽量性+適切な厚さ+曲げ剛性+ロッカー形状+ランナーとの相性」

これらが組み合わさることで生まれる可能性のある効果です。

長距離でペースを維持しやすい

ランニングエコノミーが改善すると、同じペースで走るために必要なエネルギーが少なくなる可能性があります。そのため、マラソンなどの長距離では、後半までペースを維持しやすくなることが期待されます。

2025年に行われた80分間のランニング実験では、カーボンプレートと高反発フォームを組み合わせたシューズを履いた場合、一般的なトレーニングシューズよりも、次の数値が低くなりました。

  • 同じ速度でのエネルギー消費
  • 心拍数
  • 血中乳酸濃度
  • 主観的運動強度

一方で、80分間の経過に伴う変化の仕方には、シューズ間で明確な差がありませんでした。したがって、「高反発シューズなら後半に疲労しない」とまではいえませんが、同じペースで走る負担を小さくできる可能性があります。

参考:Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports

別の60分間の実験では、AFTシューズを履いた場合、走行時間とともに酸素摂取量が増えていく現象が抑えられ、走行後の神経筋疲労も小さくなりました。

参考:International Journal of Sports Physiology and Performance

ただし、研究参加者はトレーニングを積んだランナーであり、特定のシューズを比較した結果です。すべてのランナー、すべての高反発シューズで同じ効果が得られるとは限りません。

高反発シューズは疲労を消すものではなく、一定の速度を維持するための負担をわずかに軽減し、その差が長距離で積み重なる可能性のあるシューズです。

脚部の仕事量を変えられる可能性

高反発フォームやプレート、ロッカー形状を採用したシューズは、ランニング中に足首、膝、股関節が行う仕事の配分を変える可能性があります。

2025年のメタ解析では、AFTを履いた場合、足関節の最大モーメント、正負の仕事、パワーなどが減少する傾向が確認されました。簡単にいえば、足首周辺が担当していた仕事の一部を、シューズや身体の別の部分へ移している可能性があります。

例えば、厚く復元性の高いフォームが着地時に変形すれば、身体側の筋肉や腱だけで衝撃を受け止める必要がなくなる可能性があります。また、ロッカー形状が前方への移動を補助すれば、足関節やMTP関節に必要な動きが変わります。

ただし、「脚全体の負担が均等に減る」という意味ではありません。ある関節の仕事が減っても、別の関節や筋肉の仕事が増える可能性があります。

したがって、このメリットは「脚を使わなくて済む」ではなく、「脚部で行われる仕事の量や分担を変えられる可能性がある」と表現するのが適切です。

高反発ランニングシューズのデメリット

高反発ランニングシューズには、ランニングエコノミーの改善や長距離での負担軽減が期待できます。その一方で、柔らかさ、厚さ、プレートの硬さなどが、すべてのランナーに適しているわけではありません。

「高反発=高性能=誰にでも最適」と考えると、かえって自分の走り方に合わないシューズを選ぶ可能性があります。

柔らかすぎると安定性が低下する場合がある

高反発フォームには、柔らかく大きく変形する素材が多くあります。適度に変形すればエネルギーを蓄えられますが、柔らかすぎると縦方向だけでなく、横方向にも変形しやすくなります。

特に厚底シューズは、地面から足までの距離が大きくなります。接地位置が少し横へずれたとき、その傾きを足部や足関節で制御しなければならない場合があります。

不安定さを感じやすい場面としては、次のようなものがあります。

  • 急なカーブ
  • 路面の傾斜
  • 凹凸のある道
  • 疲労によってフォームが崩れたとき
  • ゆっくり走るとき
  • 片足で立つ時間が長い場面

ただし、柔らかい高反発フォームが必ず不安定になるわけではありません。メーカーは、接地面を広くしたり、ミッドソールの側壁を高くしたり、硬さの異なるフォームを組み合わせたりして、安定性を補っています。

したがって、安定性はフォームの柔らかさだけでなく、ソール幅、かかとの形、フォーム配置などを含むシューズ全体で判断する必要があります。

接地感が遠くなる

ミッドソールが厚くなるほど、足裏と地面の距離は広がります。そのため、高反発な厚底シューズでは、路面の硬さや凹凸を感じにくくなる場合があります。

これは舗装路を長距離走る際には、衝撃や細かな刺激を感じにくくするメリットになります。一方で、接地位置を足裏で確認したいランナーには、次のような違和感につながることがあります。

  • 地面を捉えている感覚が薄い
  • 足がどこに着いたか分かりにくい
  • カーブで足元が不安に感じる
  • 細かな路面変化へ対応しにくい
  • 自分の足で地面を押す感覚が弱い

2020年のシステマティックレビューでも、柔らかく厚いミッドソールはクッション性を高める一方、接地時の足裏感覚を弱める可能性が指摘されています。

参考:Footwear construction

接地感が少ないこと自体が悪いわけではありません。衝撃や路面の刺激を減らしたい人には利点になります。しかし、接地感を重視するランナーや、不整地を走る場合には、薄底や適度な硬さを持つシューズのほうが扱いやすいことがあります。

走り方との相性がある

同じ高反発ランニングシューズでも、得られる効果には大きな個人差があります。

2023年の研究では、AFTによるランニングエコノミーの変化に大きなばらつきが確認されました。対象やシューズによっては約14%の改善がみられた一方、約10%悪化した例も含まれていました。

平均では効果があっても、すべてのランナーが同じように恩恵を受けるわけではありません。

参考:Sports Medicine

例えば、硬めの高反発フォームは、速いペースでは適度に変形しても、ゆっくりしたペースでは硬く感じることがあります。反対に、柔らかいフォームは体重や接地方法によって沈み込みすぎる場合があります。

高反発というスペックだけで選ばず、自分が実際に使用するペースで、無理なくフォームを変形させられるかを確認することが重要です。

強いプレートが合わない人もいる

高反発フォームとカーボンプレートは同じものではありません。フォームは主にエネルギーを蓄えて返し、プレートはシューズの縦方向の曲げ剛性を高めます。

しかし、現在の高反発レーシングシューズでは、柔らかい厚底フォームを支えるために、硬いプレートを組み合わせたモデルが多くあります。

プレートが強すぎたり、自分の走り方と合わなかったりすると、違和感が生じることがあります。

曲げ剛性を高めたシューズの研究では、ランニングエコノミーが約3%改善した結果から、約3%悪化した結果まで報告されています。

プレートは硬ければ硬いほどよいのではなく、位置、形状、湾曲、ランナーの速度や身体特性との組み合わせが重要です。

参考:Sports Medicine

プレート入りシューズが合わない場合でも、高反発フォームを使用したプレートなしのシューズという選択肢があります。

関節ごとの負荷が変わる可能性

高反発シューズを履くと、脚全体の負荷が一律に減るわけではありません。シューズの厚さ、柔らかさ、曲げ剛性、ロッカー形状によって、足首、膝、股関節、MTP関節の動きや仕事の分担が変わります。

例えば、ロッカー形状やプレートによって足首の動きや仕事が減少しても、その仕事の一部が膝や股関節へ移る可能性があります。また、柔らかく不安定なフォームを制御するため、足部や足関節周辺で別の負担が生じる場合もあります。

2025年のメタ解析では、AFTによって足関節のモーメント、仕事、パワーが低下する傾向が確認されました。一方、膝や股関節などを含めた全身の変化は一様ではなく、フォーム、プレート、走行速度などの相互作用が重要だとされています。

参考:Journal of Sport and Health Science

これは必ずしも悪い変化ではありません。足首周辺の負担を抑えたいランナーにはメリットになる可能性があります。しかし、負荷が消えたのではなく、身体の別の場所へ移った可能性も考える必要があります。

なお、現時点では「高反発シューズを履くと故障が増える」あるいは「故障を防げる」と一律に結論づけられるだけの根拠はありません。違和感や痛みが出た場合は、シューズに慣れれば解決すると決めつけず、使用を中止または減らすことが必要です。

高反発ランニングシューズは目的と相性で選ぶ

高反発ランニングシューズには、エネルギーロスを小さくし、ランニングエコノミーを改善できる可能性があります。長距離では、同じペースに必要なエネルギーや主観的な負担を抑えられることも期待できます。

一方で、柔らかさによる不安定性、接地感の低下、プレートの硬さ、関節ごとの仕事の変化といったデメリットもあります。

したがって、「高反発=優れたシューズ」「反発が強いほど速く走れる」という理解は正確ではありません。

高反発シューズが適しているかは、次の条件によって変わります。

  • レース用かトレーニング用か
  • 走る距離とペース
  • 柔らかい感触と硬い感触のどちらを好むか
  • 安定性と接地感をどれくらい求めるか
  • プレート入りシューズに慣れているか
  • 自分のランニングフォームと合っているか

高反発性能は、ランニングシューズを評価する一つの要素にすぎません。反発の強さだけでなく、安定性、重量、フィット感、走行目的とのバランスを確認することが、自分に合ったシューズ選びにつながります。

高反発でプレート非搭載のシューズにはどんな特徴がある?

何度も復習になりますが、高反発ミッドソールは着地で押しつぶされ、エネルギーを蓄え、復元時にその一部を一気に返します。

もしもプレートやシャンクがなければ、シューズ全体の縦方向(前方向)の曲げ剛性は一般に低くなりやすく(曲がりやすく)、

  • 前足部がより曲がる
  • MTP関節(足指の付け根)がより動く
  • 足部アーチが変形する
  • 中足部のねじれや屈曲を足自身で制御する割合が増える

ということが起こり得ます。

高反発ミッドソールは、接地で蓄えたエネルギーを蹴り出し時に返してくれます。ただし、その反発が自動的に前方への推進力へ変わるわけではありません。

プレートやシャンクがないシューズでは、シューズ側が足の曲がり方や力の向きを強く誘導する働きは比較的小さくなります。

そのため、ミッドソールから返ってきたエネルギーを前への推進につなげるには、接地位置や足首・MTP関節の使い方、身体の重心移動など、ランナー自身のバイオメカニクスがより重要になります。

このため、厚底カーボンシューズとは違った刺激を必要とし、足部を鍛えられる可能性があります。

高反発だけど推進力がないシューズを履くメリット

シャンクやプレートがないシューズは、シューズ側の剛性やロッカーに頼りすぎず、自分の足で接地から蹴り出しまでをコントロールしやすいのが特徴です。

ここからは高反発ミッドソールでありながら、シャンクやプレートを搭載していないシューズを履く5つのメリットを紹介します。

  • ① 足裏の小さな筋肉が働く余地が大きくなる
  • ② 足のアーチを「自分で支える能力」への刺激
  • ③ MTP関節や足趾を使う動作
  • ④ 足関節まわりへの要求が増える可能性
  • ⑤ 「地面に合わせて足を安定させる能力」への刺激

① 足裏の小さな筋肉が働く余地が大きくなる

足には「内在筋」と呼ばれる小さな筋肉があります。

これらは足のアーチを支えたり、着地時の足部の変形をコントロールしたり、蹴り出し時に足を安定させたりします。

足には「内在筋」と呼ばれる小さな筋肉があります。

プレートのような硬い構造が少ないシューズでは、足自身がこの役割を担う割合が増える可能性があります。

実際、ミニマリストシューズ(薄底シューズ)を使った研究では、足部内在筋の大きさや筋力が増加することが報告されています。

8週間の研究では、ミニマリストシューズで歩いた群は、足部筋力トレーニング群と同様に足の筋力と筋サイズが増加しました。

参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30113521/

また、6か月のミニマリストシューズ移行でも、足部内在筋・外在筋の筋量変化が研究されています。

参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27195735/

ただし、ここで注意したいのは、「プレートなしの高反発シューズ=ミニマリストシューズ」ではないことです。

厚みやドロップ、クッション量が違うので、研究結果をそのまま当てはめることはできません。あくまで「シューズ側の構造的サポートが少ないほど、足部自身に変形を制御する役割が残りやすい」という考え方です。

要は自分の足で変形をコントロールする力がつく、ということです。

② 足のアーチを「自分で支える能力」への刺激

人間の足部アーチは、単なるバネではありません。足底腱膜や靱帯だけでなく、足部内在筋もアーチの剛性を調整しています。

着地すると足のアーチがわずかに沈み、接地後半になると足部が硬くなって蹴り出しへ移ります。

プレートが強く足部を補強している場合、この足自身で剛性を調整する役割の一部をシューズが担います。

一方、プレートなしなら、

  • 着地
  • 足部が変形
  • 足底筋群などが変形を制御
  • 蹴り出しに向けて足部を安定させる

という働きがより必要になる可能性があります。

実際、足の小さな筋肉を8週間鍛えた研究では、足部内在筋が発達し、走っているときに地面を後ろへ押して前へ進む力の出し方にも変化が見られました。

参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31962191/

したがって、プレート無しのシューズで期待できる刺激の一つは「足を一枚の硬い板にしてもらう」のではなく、「自分の足で剛性を作る」という能力です。

③ MTP関節や足趾を使う動作

硬いプレートがあるシューズの場合、前足部の曲がりを抑えてくれます。

逆にプレートがないシューズでは、蹴り出し時に前足部がより自然に曲がり、MTP関節の背屈も起こりやすくなります。

つまり、

  • 足指の付け根が曲がる
  • 足底腱膜や足底筋群が関与する
  • 前足部を使って蹴り出す

という動作が残りやすくなります。これはつま先で強く蹴る練習という意味ではありません。

むしろ、足部が接地中に変形し、それを自分で安定させながら次の蹴り出しへつなげるという機能的な刺激です。プレートやシャンクなしのシューズではこれを鍛えることができます。

④ 足関節まわりへの要求が増える可能性

厚底カーボンシューズでは、足関節でのモーメントや仕事量が小さくなる傾向が報告されています。2025年に48の研究・878人分のデータをまとめた分析では、厚底カーボンシューズを履くと、走るときの酸素消費量が減るだけでなく、足首まわりでエネルギーを生み出したり、受け止めたりする仕事も小さくなる傾向が確認されています。

参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40550392/

裏返せば、プレートなどの補助が少ないシューズでは、足関節側がより多くの役割を担う可能性があります。

ここには、

  • 腓腹筋
  • ヒラメ筋
  • アキレス腱
  • 足底筋群

などの筋腱系が関係します。

ただしプレートを抜けばふくらはぎが必ず強くなるとまでは言えません。

実際、6週間のミニマリストシューズを使用した研究では、ランニングエコノミーや5kmパフォーマンスは改善したものの、足関節底屈筋力の有意な向上は確認されませんでした。

参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28483557/

ここはかなり重要です。「負荷がかかる」と「筋力が向上する」は別だからです。

⑤ 「地面に合わせて足を安定させる能力」への刺激

プレートやシャンクが強いシューズでは、シューズ自体がある程度形を保ってくれます。

しかしプレートがないシューズでは、

  • 着地位置が少し外側にズレる
  • ソールが変形する
  • 足部・足関節がそれを制御する

という状況が起こりやすくなります。したがってトレーニングという観点では「自分の足で接地を安定させる」という刺激が増える可能性があります。

つまり、着地のたびに足がグラつきすぎないよう、自分の足で支えて安定させる能力を使いやすくなる、ということです。

反発を走りにつなげるための足部・足関節の役割を鍛える

高反発だけど推進力がない(シャンク・プレート無し)シューズでは、着地時のエネルギーの一部を反発で返してくれます。つまり、プレートがなくても反発はあります。

一方で、プレートやシャンクがないと、前足部の曲がり方やMTP関節、足部アーチ、足関節まわりの動きをサポートしてもらえません。

そのため、

  • 高反発フォーム: エネルギーを返す
  • プレート・シャンクなし:足部の動きを硬い構造で補助しすぎない

という組み合わせになります。

ここでランナーには、足部を安定させたり、足のアーチの剛性を調整したり、足関節を使って地面へ力を伝えたりする役割を自分の足で行う必要があります。

実際、カーボンプレートシューズと非カーボンシューズを比較した2026年のシステマティックレビューでは、カーボンプレートシューズで足関節パワーが低下する傾向がみられました(レースでは省エネの可能性があるためポジティブ。しかし足を鍛える刺激という面では必ずしもポジティブとは限らない)。

一方で、膝・股関節・MTP関節などでは一貫した差は確認されず、プレートの有無による力学的変化は単純ではありません。

参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42293993/

ですから、「プレートが仕事を全部代わりにやっている」ということではありませんが、プレートレスでは足関節や足部自身が担う仕事を残しやすい、と考える余地はあります。

さらに参考になるのが、ミニマリストシューズの研究です。8週間、ミニマリストシューズで歩いたランナーでは、足部筋力と足部筋サイズが増加し、専用の足部筋力トレーニングと同程度の効果が確認されました。 6か月の移行研究でも、足部・下腿の筋量増加が報告されています。

参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30113521/ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27195735/

ただし、これはシャンク・プレート無しの高反発シューズを直接調べた研究ではなく、ミニマリストシューズ(薄底シューズ)の結果です。

そのため、同じ効果が必ず起こるとは言えません。

高反発でありながらプレート無しのシューズは何がある?

高反発フォームを採用しながら、カーボンプレートやシャンクを搭載していないシューズとして挙げられるのが、ASICSの「METASLEEK」です。

METASLEEKは、反発性に優れるFF TURBO SQUAREDをミッドソールに採用しながら、カーボンプレートを使わない設計が特徴です。

ミッドソールの最大厚は29mmと、近年の厚底レーシングシューズと比べても低めに抑えられています。

そのため、高反発フォームによるエネルギーリターンの恩恵を受けつつ、プレートによる高い曲げ剛性やロッカー効果に頼りすぎず、自分の足部や足関節を使って接地から蹴り出しまでをコントロールするシューズです。

ASICSもMETASLEEKを、足本来の動きや自ら推進力を生み出す感覚を養うためのトレーニングシューズとして位置づけています。

METASLEEKで意識しやすい足の動き

METASLEEKで意識しやすいのは、自分の足部・足関節を使って、接地から蹴り出しまでをつなげる動きです。

ミッドソールには反発性とクッション性を持つFF TURBO SQUAREDを採用!

まず一番鍛えられるのは自分の足部・足関節を使って接地から蹴り出しまでをつなげる能力ではないでしょうか。

例えばMETASPEEDのようなカーボンプレートシューズでは、高反発ミッドソールに加えて、プレートによる高い縦方向の曲げ剛性やソール形状が、足の曲がり方や力の作用位置を変え、効率的な前方移動をサポートします。

ASICS自身もMETASPEEDについて、カーボンプレートが足の動きを安定させ、身体を前方へ推進しやすくすると説明しています。

一方でMETASLEEKには、そのカーボンプレートがありません。

そのためMETASLEEKではFF TURBO SQUAREDで着地時のエネルギーを蓄えて返してくれる一方で、プレートがないので足の曲がり方や蹴り出しを高剛性プレートで強く補助しない、ということになります。

つまり、反発は得られるけれど、その反発をどう前への動きにつなげるかはランナーの足にゆだねられる、ということです。

METASLEEKから得られる反発を前への推進に変える足の動き、フォームなどを鍛えられます。